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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
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メイエルホリド劇場の舞台の上には、大きい軍艦の甲板があった。白い海軍将校の服をつけたヨーロッパ人将校が、粗末な白木綿の服の背に弁髪をたれている少年給仕を叱咤し、殴りたおし、そのしなやかな体を足蹴にかけている。こうして憎悪は集積されてゆくのだ。吼えろ 支那! でも、多計代は、どうして、ああ憎悪を挑発するのが巧みなのだろう。うすぐらい観客席から舞台を見ている伸子の心に閃いた。「佐々家の血統にながれている冷酷な血」その血が、伸子の体のなかにも流れている、と、――それならその血が流れて伸子につたわるようにしたのは誰の仕業だろう、そして、それはどんな行為を通じて? 多計代のそういう行為に、子供たちの誰が参画しただろう。舞台の上は、いま薄暗い。船艙の一隅に蒼白く煙るような照明がつよく集注されている。足蹴にされた少年給仕の、縊れて死んだ死体がその隅に横たわっている。少年は、きょうだけ足蹴にされたのではなかった。きのうも、おとといも、彼の労働がはじまった日から、彼が命令者をもたなくてはならなくなったその日から、少年の恐怖ははじまった。無限につながる明日への恐怖と絶望のために少年給仕は縊れて死んでしまった。