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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「――乾きはじめたわねえ」

伸子は天気のよさをよろこびながら、こんな事情で出て来たことを辛がっている声でつぶやいた。

素子は三人のすこし先に立つようにアストージェンカの角まで来た。そこで、立ちどまった。そして、

「宮野さん、どっちです?」

ふりむくようにしてきいた。折から、左手のゆるやかな坂の方から劇場広場の方向へゆく電車がのんびりした日曜日の速力で来かかっている。

伸子たちが住んでいる建物の板囲いからいくらも来ていないのに、いきなり素子からそうきかれて、宮野は間誤ついたらしかった。口のうちで、さあ、とつぶやきながら、うっとうしそうな睫毛をしばたたいた。

「――僕は、『赤い罌粟』の切符を買いに行っておきましょう」

「じゃ」

素子が、鞣帽子をかぶっている頭をちょいと下げて会釈した。

「わたしたち、こっちですから……」

宮野は鳥打帽のふちに手をかけた。

「レーニングラードへいらっしゃることもあるでしょうから――いずれまたゆっくりあちらでお目にかかります」

こうして宮野は電車の停留場のところへのこった。

伸子たちは、自然、停留場のあるその町角をつっきって、並木道へ入った。