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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

警察犬が、いま来るかいま来るかと思いながら一人ぽっちで台所にいるのが、ニューラに辛抱できなくなって、到頭伸子のところへ来たことは、室へ入って来たものの、そのまま途方にくれたようにしているニューラのそぶりでわかった。

「ニューラ。こわがるのはやめなさい。犬は正直だから、ニューラのところに洗濯ものなんかかくしてないことはよくわかることよ」

そうはげまされてもなお半信半疑の表情で、窓からフラム・フリスタ・スパシーチェリヤの金の円屋根を眺めていたニューラは、

「奥さんは、わたしを疑っているんです」

深く傷つけられて、それを癒す道のない声の調子でつぶやいた。

「奥さんは、わたしが不正直でも九ヵ月つかっていたでしょうか」

すすり泣くように大きな息を吸いこんでニューラは、

「ああ。悲しい」

と全身をよじるようにした。

「いつだってあのひとたちはそうなんです」

ニューラは、気の上ずったような早口で喋りはじめた。伸子たちがここへ移って来る前、オルロフという山羊髯の気味のわるい男の下宿人がいた。山羊髯のオルロフは何でも特別彼のためのものをもっていた。ニッケルの特別な彼の手拭かけ。