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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
ときいた。
「さあ――どうでしょう――やっているでしょう」
「やってます、やってます」
内海厚が、わきから早口に答えた。
伸子たちは、靴を埃だらけにして、アストージェンカへ帰って来た。朝のうちは、電車のとまった通りを赤い広場の方へゆく人かげはまばらだったのに、帰り途は、同じ大通りが、赤い広場から家へ歩いてかえる群集で混雑していた。赤い紙の小さい旗をもったり、口笛をふいたりしながら、みんなが歩きつかれたメーデイ気分でゆっくり歩いている。
「くたびれた!」
部屋へ入ると、すぐ窓をあけて伸子がディヴァンへ身をなげかけた。
「立ってるのはこたえるもんさ」
美味しそうに素子がタバコを吸いはじめた。
いつもなら窓をあけるやいなや、ごろた石じきの車道をゆく荷馬車の音だの、電車のガッタンガッタンがひとかたまりの騒音となって、フラム・フリスタ・スパシーチェリヤの大きな石の建物にぶつかってから伸子たちの狭く浅い部屋へなだれこんで来る。きょうは、窓をあけても、騒々しい音は一つもなかった。午後の柔かく大きな静けさが建物全体と街をつつんで、伸子がディヴァンにじっとしていると、四階の窓へはかすかに人通りのざわめきがつたわって来るだけだった。