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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ニューラ、どこへ行っちまったの」
節をつけるようにひっぱって云った。すると、台所のガラス戸のそとについているバルコニーからニューラが出て来た。何をしていたのか、すこし上気せた顔色だった。
「歩いたんで、喉がかわいたのよ、ニューラ。お湯をもらえるかしら」
「よござんす」
ニューラはすぐヤカンをおろして水を入れ、ガスにかけた。
「ありがとう。お湯はわたしがとりに来るから」
そう云って台所を出ようとした伸子に、ちょっとためらっていたニューラが、
「ここへ来てごらんなさい」
バルコニーへ出るドアをさした。鉄の手摺のついたせまいバルコニーの片隅には、空箱だの袋だのが積まれていて、ニューラが洗濯するブリキの盥もおいてある。バルコニーは、この建物の内庭に面していて、じき左手から建物のもう一つの翼がはり出しているために日当りがわるかった。内庭のむこう側にコンクリート壁があって、ギザギザの出た針金が二本その上にまわしてある。そこにくっついて塀の高さとすれすれに赤茶色に塗られたパン焼工場の屋根があった。その屋根の上に、もうメーデイの行進から帰って来たのか、それとも行かなかったのか、三人の若者が出てふざけていた。