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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
三月十五日に日本で共産党の人々が検挙されたという記事に、泰造は、どんなつもりでそんな、衝動的な赤インクのかぎをかけ、伸子へ送らせたのだろう。伸子が仮にパリにいたとして、泰造はやっぱりこうして新聞をよこすだろうか。娘がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)にいるということだけで、泰造はその新聞記事から普通でない衝動をうけたのだ。どう表現していいか泰造自身にもわからなかったのだろうけれども、赤インクのかぎは、泰造の受けた衝撃の感情の性質を語っていることが伸子を悲しくさせた。
去年の秋、伸子たちがソヴェトへ来るときめたとき、そして旅券のことについて動坂の家へ行ったとき、母の多計代は「ロ・シ・アへ?」と、ひとことひとこと、ひっぱって云って、いやな顔をした。半年近くたったこの間、伸子がそこまでよんで先がよめなくなった多計代の手紙には、「冷酷なあなたの心は、ロシアへ行ってから」とかかれていた。父の泰造は、旅券のことで助力をたのみに行ったときも、伸子がともかく自分の力で借金ができて、外国へも行くようになったことをよろこんで、行くさきについて意見は洩さなかった。