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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
いま、このテーブルで、М・Х・Тの話が出たときも秋山は同じような態度をくりかえした。瀬川が話しはじめて、瀬川が切符をくれて、一緒に行くときまって、秋山宇一はМ・Х・Тのすばらしさを力説した。
モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)芸術座は、瀬川が云ったとおり、ほんとにホテルから、じきだった。トゥウェルスカヤの大通りを、赤い広場と反対の左の方へ少しのぼって、ひろい十字路を右へ入ると、いくらも行かないうちに、せまい歩道の上に反射光線をうけて硝子庇がはり出されているのが見え、雪の夜の暗い通りのそこ一点だけ陽気な明るさに溢れていた。うしろから来て伸子たちを追いぬきながら、一層元気に談笑して足を早めてゆく人々。あっち側から来て劇場へ入ろうとしている人々。劇場の前だけに溢れている明るさは、ひっきりなし降る雪片を白く見せ、そのなかを、絶えず黒い人影が動いた。それらの黒い影絵の人々がいよいよ表扉を押して劇場へ入ろうとする瞬間、パッと半身が強い照明を浴びた。そして、鞣外套の茶色っぽい艷だの、女がかぶっているクリーム色のショールの上の赤や黒のバラの花模様を浮立たせている。