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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

そう云えば伸子もまだ時計をみていなかった。

「八時半だわ」

素子は一寸の間黙っていたが、ベッドに横になったまま、

「カーテンあけてみないか」

と云った。伸子は、重く大きい海老茶木綿の綾織カーテンを勢よくひいた。狭いその一室に外光がさしこんだ。雪のふりしきる窓の全景があらわれ、うす緑色の塗料でぬられている彼女たちの室の壁が明るくなった。しかし、その明るさは大きい窓ガラス越しにふる雪の白さがかえって際だって見えるという程の明るさでしかなかった。

「これじゃ仕様がない、ぶこちゃん、電気つけようよ」

スイッチを押し、灯をつけてから、伸子はドアをあけて首だけ出すようにホテルの廊下をのぞいた。くらい十二月の朝の気配や降る雪にすべての物音を消されている外界の様子が伸子にもの珍しかった。廊下のはずれにバケツを下げた掃除女の姿が見えるばかりだった。廊下をへだてた斜向いの室のドアもまだしまったままで、廊下のはじにニッケルのサモワールが出してあった。サモワールは、ゆうべ秋山宇一が彼の室へとりよせて瀬川雅夫などと一緒に、伸子たちをもてなしてくれたその名残りだった。

ドアをしめて戻ると、伸子は腑におちない風で、