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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
真面目ないそいだ足どりで来た素子はヴェランダの伸子を認めると、手にもっている黄色い紙をふってみせた。エレーナもそちらへ注意をひかれた。マズルカの足どりは自然に消えて、エレーナと伸子とが片手はまだつなぎあったまま立ちどまったところへ、素子が、
「ぶこちゃん、電報だ」
黄色い紙を細長い四角に畳んだものをわたした。
「電報? どこから」
「うちかららしい」
伸子は、どういう風にエレーナの手をほどいたかも気づかないで、広間とヴェランダの境に立ったまま電報をひらいた。
よみにくいローマ綴りを一字一字ひろった。シキウキチヨウアリタシ。――至急帰朝ありたし。――無言のまま二度三度、その文句を心の中にくりかえして見ているうちに、伸子は抵抗の自覚される心持になって来た。電文そのものが唐突で簡単すぎ、意味がつかめないばかりでなく、そういう唐突な電報でこんなに遠くで営まれている伸子の生活の流れが変えられでもするように思ううちのひとたちの考えが、苦しかった。
伸子はエレーナに挨拶して、のろのろ素子と広間の寄木の床を部屋の方へ歩いた。
「どういうんだろう」
電文をくりかえしてよんだ素子が、それを伸子にかえしながら、いろいろの場合を考えて見るように云った。