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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「まだみんな寝てるのかしら――」
と小声を出した。
「まるでひっそりよ」
「ふうん」
ゆっくりかまえていた素子は、
「どれ」
とおき上ると、わきの椅子の背にぬぎかけてあったものを一つ一つとって手早く身仕度をととのえはじめた。
二人で廊下へ出てみても、やっぱり森閑として人気がない。伸子たちは、ドアの上に57という室番号が小さい楕円形の瀬戸ものに書いてある一室をノックした。
「はい」
几帳面なロシア語の返事がドアのすぐうしろでした。素子がハンドルに手をかけると同時にドアは内側へひらかれた。
「や、お早うございます。さあ、どうぞ……」
ロシア革命十周年記念の文化国賓として、二ヵ月ばかり前からモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)に来ている秋山宇一は、日本からつれて来た内海厚という外語の露語科を出た若いひととずっと一緒だった。ドアをあけたのは、内海だった。
「どうでした――第一夜の眠り心地は……」
窓よりに置いたテーブルに向って長椅子にかけている秋山宇一が、ちょっとしゃれた工合に頭をうなずかせて挨拶しながら伸子たちにきいた。
「すっかりよく寝ちまった……なかなか降ってるじゃありませんか」