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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

ホテルの各室は、生活についてのそういう気取りない理解に立って設備されていた。どの室にも、お茶をのんだりする角テーブル一つと、仕事用の大きいデスクが置かれていた。デスクの上には、うち側の白い緑色のシェードのついたスタンドが備えつけてあり、二色のインク・スタンドがあった。ロシア流にトノ粉をぬって磨きあげられた木の床の、あっちとこっちにはなして、鼠色毛布をかけた二つの寝台がおかれている。

こういう小ホテルのなかに、おそらくは伸子たちにとって特別滑稽な場所がひとところあった。それは浴室だった。はじめて入浴の日、きめた時間に素子が先へ二階まで降りて行った。すると間もなく、部屋靴にしているコーカサス靴の木の踵を鳴らしながら素子が戻って来た。

「どうしたの? わいていなかった?」

風呂は、前日事務所へ申しこんでおいて、きまった時間に入ることになっているのだった。

「わいちゃいますがね、――ちょいと来てごらんよ」

「どうしたの?」

「まあ、きてみなさい」

白い不二絹のブラウスの上に、紫の日本羽織をはおっている伸子が、太い縞ラシャの男仕立のガウンを着ている素子について、厨房のわきの「浴室」