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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子は半分ふざけて云った。
「レンズだの自動車だのは、一年ごとに進歩して、よりよいものが作られているのよ」
ピオニェールは、口のなかで、
「そりゃ本当だ」
と言いながらまたレンズを目に当ててバルコニーのうしろの方を眺めていたが、素子に、
「僕このレンズちょっとかりて下へもって行っていいですか。僕の席、あすこなんです」
バルコニーの手摺りから、下のオーケストラ・ボックスの右よりの場所を示した。
「僕、下から上が見てみたいんだ。いいですか。すぐもって来ます」
素子は、ちらりと伸子を見た。
「――いいだろう」
その言葉の響には、少年を信用してもいいだろうという意味がききとれた。伸子は、だまって、口元でわからないという表情をした。その少年のピオニェールの服装が、どこやら信用しない自分のきもちの方が普通でないようにも伸子に感じさせるのだった。
「まあいい――」
素子はロシア語で、
「かしてあげるよ。すぐもって来なさい」
と云った。少年はバルコニーから姿を消した。オーケストラ・ボックスに近い下の席にまた彼のピオニェール姿が現れるまでに、すこし時間がかかりすぎる感じだった。素子と並んで首をのばして下を見ながら、伸子は、