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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「お金、みられたんじゃないかしら」
と云った。
「あの女、気がついてる? 赤ブラウスの女、外套あずけのところで、すぐあなたのうしろにいたのよ」
「ああ、あいつはすこし変だ」
オペラ・グラスそのものは、伸子たちにとって、なくなって大して惜しいものでもなかったし、不便する品ものでもなかった。けれども、あの子供は、ほんとにただオペラ・グラスが珍しいだけなのか。それとも盗むのだろうか。伸子たちの好奇心はそちらに重点がうつった。
すこし時間をかけすぎた感じだったが、やがてそのピオニェールは伸子たちが見下しているオーケストラ・ボックスの近くの席へ、赤いネクタイ姿をあらわした。幕のしまっている舞台をうしろにして席のところに立ち、伸子たちのいるバルコニーへオペラ・グラスを向け、挨拶に手をふった。幕間にも席を立たずにいたまばらな観客の顔が二つ三つ、ふりかえって、ピオニェールがそこに向って手をふっている伸子たちのバルコニーを見上げた。少年の隣りの席にいた黒っぽい背びろ服の男が、少年からオペラ・グラスをかりて首をねじり、特に伸子たちの方というのではなくバルコニー全体を眺めた。