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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「僕がもってあげましょう」
伸子からとって自分の脇の下にはさんだ。
アストージェンカへ行く電車が間もなく来た。明るい車内は、劇場や集会帰りの男女で満員だった。伸子とピオニェールはやっと車掌台へわりこんだ。伸子たちのほかにも数人乗った。おされて少しずつ奥へ入りながら、伸子は、
「そのスーモチカをよこしなさい。切符を買うから」
と云った。
「僕が買ったげます――僕はパスがあるから」
そう云いながら伸子より一歩さきに車掌台から一段高くなった電車の入口に立っていたピオニェールは、すこし爪先だったようにして、こんだ車内を見わたした。電車は次の停留場へ近づいているところだった。ちょっと外を見た伸子が、目をかえして電車の入口を見たら、ピオニェールは、そこにいなかった。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の電車で車掌はいつも伸子たちののりこんだ後部にいて、日本のように車内を動きまわらない。見ればちゃんと婦人車掌は、こみながらも彼女の場所として保たれている片隅に立っている。ピオニェールは切符を買うために奥へ入る必要はないのだ。
やられた! 伸子は瞬間にそう思った。