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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
しかし、実際問題として、どうしたらよかったろう。伸子は素子よりももっと背が小さいから、普通の大さの浴槽でも、さかさに入って湯のカランのある方へ頭をもたせかけて、というよりも、ひっかけて、いつも入っているのに。
「――わたし溺れてしまう」
二人は、到頭いちどきに入ることにした。たがいちがいにしてならば、裸の体が小さくても滑りこむ危険はふせげるのであった。気候がさむくて、その上、夜は芝居だの、夜ふかしの癖のあるモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の人たちは、午後のうちに入浴する習慣らしかった。十二月のモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)では、昼間という時間が、一日に八時間ぐらいしかなかった。しかも雪のひどく降る日には電燈をつけぱなしにしたままで。
伸子たちは、その朝も十時ごろまでには朝の茶をすました。掃除女が室の片づけを終るのを待って、素子は窓に向ったデスクの前に、「プラウダ」と「イズヴェスチヤ」とをもって納った。伸子は、外套を出してベッドの上におき、珍しいことに衣裳タンスについた鏡に向って、褐色フェルトの小さい帽子のかぶりかたを研究していた。