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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

夫婦は下宿人に対してきわめて淡泊だった。したがって女中の料理の腕についても無関心だった。伸子がどんなに焦げたカツレツを毎日たべ、夜の茶にはどんなにわるい脂でかきまぜた魚とキャベジと人参のつめたい酸づけをたべているかということについても無頓着だった。

二三日暮らすうちに、グーセフの家のそういう無頓着さは、ほんとにただ無頓着だというだけのもので、むしろ自然な状態なのだということが伸子に会得された。小型なディヴァンも、室の大きさにくらべて異様にちょこんとしたデスクも、グーセフ夫婦にすれば単純に素子と伸子の体の大きさを念頭においてそれらの家具を選んだというのにすぎないらしかった。事実、その極端に小さく見えるディヴァンに伸子がシーツと毛布とをひろげて寝てみれば、それはゆっくりしないまでもさしつかえなく寝床の役に立つのだった。

グーセフ夫婦は足にあわせて靴の寸法でもはかるように、自分たちからみればずっと小柄な新しい下宿人の寸法に合わせて、清潔な新しい二つの家具を買い入れた。その小型なディヴァンと小型なデスクとが、がらんとしたひろい室にどんな効果をもたらすかということについて夫婦は考えなかった。