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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「あした、わたしどもお客に招かれているんです」
白木綿のブラウスに黒いスカートのグーセフの細君は、たのしみそうに云って、衣裳箪笥をあけた。そして、その中に彼女のもちものとして一枚かかっていた大きな毛皮外套をとり出した。グーセフの細君は、ハンガーごとその毛皮外套を片手でつり上げ、すこし自分からはなして眺めながら、
「ニェ・プローホ(悪くない)」
と云った。
「わたしに似合いますか?」
顎の下へその毛皮外套を当てがって伸子の方を向いた。伸子はノックがきこえたとき、ものが手につかず淋しがっている自分をその室の中に見出されるのがせつなくて、さも何かしかけていたようにデスクのまわりに立っていたのだった。伸子は、
「着てみせて」
といった。
「よく似合います」
「よかったこと」
細君は伸子がひそかに気にしたようには、伸子の髪の変化に注意をはらわず毛皮外套を着ている腕をのばし、厚く折りかえしになっているカフスのところを手で撫でながら、
「モストルグには、もっとずっと上等の毛皮外套が出ていたんです。でも、そういうのはひどくたかいんです」
と云った。
「わたしたちは、当分これで間に合わせることにきめたんです」