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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

ストラスナーヤ広場から、雪につつまれた並木道をニキーツキー門の方まで歩いてみることがあった。その時間の並木道は、ひどい雪降りでないかぎり、戸外につれ出されている赤坊と子供たちでいっぱいだった。すっかり蒲団にくるまれた赤坊は、乳母車のなかで小さく赤い顔だけ出して遊歩道を押されて行った。すっぽり耳までかくれる防寒帽に、紐でつったまる手袋、厚外套で仔熊のようにふくらんでいる子供たちは、木作りの橇をひっぱっていた。その上に腹這いにのっかって、枝々に雪のある楡の並木の間の短い斜面を、下の小道まで辷りっこしている子供たち。

纏足をして、黒い綿入ズボンに防寒帽をかぶった中国の女が、腕に籠を下げ、指にとおしたゴム紐で、毬をはずまして売っていた。その毬は支那風に、赤、黄、緑の色糸でかがってある。並木道の入口にコップ一杯五カペイキの向日葵の種やリンゴ、タバコを売っている屋台店があり、一軒の屋台店では腸詰だのクワスだのを売っていた。その屋台店の主人は顔の黒い韃靼人で、通りがかった伸子をきつい白眼がちの眼でじろりと見て、壺から真黄い粟のカーシャをたべていた。雪の白さに、韃靼人の顔の黒さはしんから黒く、粟の黄色さは目のさめる黄色だった。