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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
そう云って素子はハハハと笑った。
「きみのおっかさんの現金なのにゃ、顔まけだ」
モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)で病気している伸子が素子の世話になると思うと、多計代はそれとしてはうそのない気持で感謝のことづてをよこしたのだろう、でも素子とすれば過去何年もの間自分に向けられている多計代の猜疑や習慣的に見くだした扱いの、全部をそのことによって忘れることはできないのだった。素子は、おきまりの土産であるミカンを鞄から出して一つずつ伸子のベッドのわきのテーブルへ並べながら、低い声の、ちょっと唇を歪めた表情で、
「君のおっかさんは何と思ってるかしらないが、ここじゃ、ああいう関係、いいことはないよ」
と云った。
「わたしもそう思ったわ。――ほんとに困る……」
「木部中佐とは反対のタイプさ、そうだろう?」
「そうだと思うわ」
「木部君にしたって、あの磊落は外向的ジェスチュアだがね」
伸子は素子のいうことがいちいちわかって、一層せつなかった。心細い活路をそこに見つけるように伸子は、
「あなた、東大の吉沢博士がモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ来るかもしれないって話きいて?」