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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
和一郎と小枝にとって、ましてつや子にとってそういう旅行をする機会がまたいつあろうとも思われなかった。若い連中への思いやりとはおのずからちがったニュアンスで、父と母とがその立場や境遇にふさわしくこの旅をたのしむことを想像すれば、それはやはり伸子にやさしい思いを抱かせるのだった。できるだけみんなを満足させ、その上でみんなはシベリアをとおってなり、アメリカをぬけてなり、都合のいいように帰ればいい。そして自分はまたモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ戻ってくればそれでいいのだ。自分はうちのものみんなと、どうしても帰らないと気分がきまればきまるほど、伸子はさっぱりしたこころで、一家の旅行が愉快に始められることを希望するようになった。
翌日、素子が来たとき伸子は、彼女の顔を見るなり、
「ねえ、わたし、少し希望が出てきたわ、みんなが来るということについて」
嬉しそうに快活に言った。
「わたしはね、早くよくなって、フランスまで出かけて、まめによくみんなの面倒をみてやってね、帰れなんて言われないようにする決心したのよ」
熱心な思いを浮べて話している伸子の顔をじっと見つめ、素子は非常にまじめな複雑な表情で、彼女の大きめな唇の隅をゆっくりつりあげた。