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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

そして、もっと伸子自身にとってこまったような面白いような思いのすることは、フランスとかパリとかいうとき、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)に一年以上生活した現在、伸子の心にそこで何がほんとに自分の興味をとらえるのかということがつかみにくくなって来ていることだった。ひととおりのものに万遍なく興味をもつことは、伸子の生れつきから自然だった。ソヴェトへ向って立って来る時分の伸子は、そのひととおりフランスらしいもの、音楽とか絵とかカフェーとかマロニエとかパリの雰囲気として語られているものに期待するだけだった。けれども、現在の伸子は、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)についてクレムリンや並木道の風物以外のより現実的な生活の組立てと動きとに魅せられているとおり、パリときくと、そこには何があるだろうかと、見とおしのきかない複雑な都会生活のリアルな細部を求めて気持が動き、フランス語を知らない自分たち二人がもっている貧弱な可能性について伸子は思うのだった。

もうとうに素子のスケート練習は中止だった。素子はそれでも三四度、大使館専用のスケート場へ通ったらしかったが、ころんでばかりいたってはじまらないや、と笑いもせずにつぶやいて行かなくなってしまった。