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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
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これからの旅の先々では片言ながらどうしても伸子の英語で用を足してゆかなければならなかった。素子が自分の言葉の通用しないもどかしさと、伸子のうかつさとに癇をたかぶらしてきっかけがありさえすれば又けさのような場面が起るのかと思うと、伸子はその鞣細工品で、自分のために気の利いた小鞄を選びながら自分たちの旅行について銷沈した気分になるのだった。
ウィーン風にいれられたコーヒーには、ふわふわと泡だってつめたいクリームが熱く芳しいコーヒーの上にのっている。その芳しいあつさと軽くとけるクリームの舌ざわりとをあんまりかきまぜず口にふくむ美味さが、特色だった。
そういう飲みようを知らない伸子と素子とは、クリームをすっかりかきまわしたコーヒーの茶碗を前において、とあるカフェーにかけていた。空いている椅子の上に、買って来た、暗緑色とココア色の二つの婦人用カバンがおいてある。暗緑色で、角のまっしかくに張った方は素子のだった。こってりしたココア色で四隅に丸みのつけてあるのが伸子用だった。
そのカフェーも、ウィーンの目抜き通りにあるカフェーがそうであるように、通りに向って低く苅りこんだ常緑樹の生垣の奥に白と赤の縞の日覆いをふり出している。