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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ぶこちゃん」
不機嫌な声のままで云った。
「なあに」
「わたしが何かやっている間は、この室から出ていてくれよ」
「――そうしたっていいけれど……」
その間自分はどこにいたらいいのだろう。伸子は当惑した。ぶらぶら雪の夜街を散歩するほど伸子はまだモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)に馴れていなかった。考えてみれば、日本を出てから二ヵ月近く、二人は一つ室にばかり暮して来た。
「ね、いいことがあるわ、ここで、小さい室を二つかりましょうよ」
今いる四階の表側のひろい室代は六ルーブリ五十カペイキでそれに一割の税がついていた。
「われわれに、そんな贅沢なんか出来やしないよ。ここじゃ、一番小さい室だって五ルーブリじゃないか。そんなことしたら本代なんか出やしない」
「…………」
系統的に本を買わなければならないのは素子だった。二人の旅費のしめくくりをしているのも素子であった。
「ね、ぶこ、たのむ」
素子は、自分の云うことに我ままのあるのは分っているが、どうにもやりきれないのだという風に、そう云いながら涙ぐんだ。
「暫くのことなんだから秋山さんの室へでもどこへでもいっててくれ」