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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
黒川隆三は、
「佐々島博士――御存じでしょう?」
と、『改造』や『中央公論』に、社会主義についての論文をかいている経済学者の名をあげた。
「先生は、大分ウィーンの社会主義には感服しておられるようですよ。都市社会主義からマルクシズムにまで出て来ているって。実際いまのウィーンの労働者住宅の家賃は戦前の十二分の一ですからね」
都市社会主義というのが、どういうものか伸子は知っていなかった。伸子も素子もだまっていた。黒川隆三は、
「どうです。佐々さん!」
はっきり年齢のとらえられない独特のものなれたくちぶりで黒川は伸子に話しの中心を向けて来た。
「こうしてみると、世の中ってものはおもしろいもんでしょう? 労働者の生活向上をやっているのはロシアばかりじゃないんですからね。ボルシェビキでなくたってウィーン社会民主党は、現に労働者生活を改善しているんですから」
「そうかしら」
胸のなかで黒川のいうことをはじきかえした伸子の気持が、そういう声におのずとあらわれた。
「わたしにはそう思えないわ」
「どうしてです?」
小さなものにつまずいたような表情が黒川の、ぴったり黒い髪をわけた顔の上を通りすぎた。