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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「ひとつ、後学のためにうかがいたいもんですな」
こういう黒川の身のかわしかたと口調とが伸子に彼の人物をわからないものにするのだった。
「だって、そうじゃないかしら。ああしてそこに住んでいる労働者の子が、外国人を見るとエハガキを売りに来るんじゃ、そこで労働者生活が改善されているとは云えないと思うんです」
「あれは佐々さん、大した意味のあることじゃないですよ。ここへ来る外国人は、みんな何か記念を欲しがるんでね、ああやってほしい人に売っているだけですよ」
「でも、事実、あれで小遣いを稼いでいるんでしょう? エハガキの収入がこの労働者住宅としての収入になっているのでないことはたしかよ」
「それはそうでしょうがね」
黒川は、その現実は認めた。しかし、すぐつづけて、
「じゃ、ロシアじゃ売ってませんか」
と、逆に質問した。
「何でも彼でも宣伝というとぬけめがないらしいがエハガキまでには手がまわりませんか」
何と妙にもってまわった云いかたをするのだろう。伸子は、
「そんなもの売っちゃあいないわ」
おこった若い女らしくぷりっとして答えた。そして傷つけられた心もちで、この間シェーンブルンへ三人で行ったときのことを思いあわせた。