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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「なかなか、頑強ですな。おどろきましたよ」

こんどは声を立てない笑いかたで笑った。

「もっとも御婦人てものは、一旦こうと覚えこまされると、あたまが単純だからなんでしょうな、なかなか理性的に方向転換できにくいものと見えますからね」

さっと手をのばしてそういう黒川のネクタイをつかむように、

「とうとうそれを出したね」

と素子が云った。そして、棗形のきめのこまかい顔を上気させた。

「黒川君のまけだよ。男が女と議論して、それを出したら、白旗だ。――認めませんか」

言葉の上では冗談のようでもあり、黒川に迫っている素子の眼の表情のうちには冗談でない真剣さも閃いている。

「なにしろ二対一だからね」

態度をあいまいにして、黒川は譲歩した。

「外国じゃあ、あらゆる場合に御婦人を立てる習慣ですからね」

「――そんなことじゃないさ!」

三人とも三人の思いでだまりこんだ。そのままなおしばらくはそこで休んでいた。

「そろそろ行きましょうか」

そう云いだしたのは黒川だった。三人並んでカール・マルクス館の廻廊をぬけ、またシュミット爺さんが住んでいるというドアのわきを通りがかった。けれども、黒川はもう一度そこをノックして見ようとはしなかった。