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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

今夜話をさせられるのは女の自分だということから、伸子は、何となし夫人同伴の組もあるように想像して来た。しかし、目の前の光景は女気ぬきでタバコと乾いた毛織物の香のみちた雰囲気だった。その室の開いたドアのところに素子と伸子とを見ずにいられない位置にいる年配の人々は、おおかた彼らの日本医学者としての権威が非常にたかくて、年かさの女学生に過ぎない風な簡素な日本の女に、直接の注意を向けることは不見識と思われるのだろう。伸子たちとほとんど真向いのところでテーブルに頬づえをついて喋っている人。そのわきで、片腕を不精らしくテーブルの上でのばして遠くの灰皿で吸いきったタバコを消している人。彼らの視線はちらりと伸子たちの上を掃いたきりだった。

話しをするために何処かへ招かれたということは、伸子にとってその夜の日本人クラブの会合が初めての経験だった。ほんとに自分の話をききたいと思っている人なんかなかったのだ。堪えがたい気持で伸子はその場の空気を身にうけた。もしかしたら、木曜会の幹事である津山進治郎ひとりの思いつきだったのかもしれない。来なければよかった。そのまま帰ってしまいたい気になって、伸子が、たすけをもとめるように素子と目を見合わせたときだった。