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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

十一

ベルリンへ来たら、伸子は寸刻も止らず動いている大規模で複雑な機構のただなかにおかれた自分を感じた。ベルリンにいる日本人にとって大使館はウィーンの公使館のように、そこにいる日本人の日常生活の中心になるような存在ではなく、大戦後のインフレーション時代からひきつづいてベルリンに多勢来ている日本人は、めいめいが、めいめいの利害や目的をもって、互に競争したり牽制しあったりしながらも、じかにベルリンの相当面に接続して動いているのだった。だから、噂によれば医学博士としてベルリンで専心毒ガスの研究をしているという津山進治郎がドイツの再軍備につよい関心を抱き、一方に同じ日本人といっても川瀬勇や中館公一郎のグループのように、映画や演劇、社会科学と国際的なプロレタリア文化運動に近く暮している一群があることは、とりもなおさずベルリンの社会の姿そのものの、あるどおりのかたちなのだった。

ある午後、伸子はいつものとおり素子とつれだってドイツ銀行へ行った。文明社から伸子のうけとる金が来た。不案内で言葉も不自由な二人は手続が前後して、二度ばかり一階と三階との間を往復しなければならなかった。