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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
伸子が素子と暮すようになった五年このかた、素子と多計代との間には双方からの根ぶかい折りあいのわるさがあったから、佐々のものがフランスへ来るからと云って、伸子は、素子にも迎えに行ってほしいとは誘いかねた。しかし、素子もマルセーユという港町そのものには興味があるかもしれない。もしかしたら、素子らしく、埠頭へ迎えには行かなくても、マルセーユ見物にだけは一日ぐらいつきあって伸子とパリを立つ気があるかもしれない。伸子はそんなふうに思っていた。増永に会って、七月一日に着く佐々の一行を迎えるうち合わせをしているとき、わきにいる素子は、マルセーユという港町への興味さえも示さなかった。
「こうやって、ホテルまで手配してあれば、ぶこちゃん、心配いらないさ」
そう云ったきりだった。
「マルセーユを見る気はない?」
「――まあ、親子水いらずの方が無難だろう」
リオン停車場へ送って来た素子は列車の窓ごしに伸子に向って云った。
「せいぜい気をつけて行って来なさい」
増永の気持についても、伸子の思いちがいがあった。増永謹と佐々泰造との親しいつき合いから、息子の修三が、父の親友の一人である泰造のために、マルセーユくらいまで行くのかもしれないと、伸子は、思っていた。