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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
「そうだろう? 和一郎さん」
「よくわからない」
「おかしいこと! みんな急に目が悪くでもなったようだね。わたしの眼はわるいけれど、ちゃんと見えますよ」
銀色のシャンパン冷しをわきにおいたテーブルの上に両肱を立て、こちらに横顔を見せながら女に何か囁いていたその半礼装の日本の男は、あいての女の視線が急に好奇心でひきつれられた方角を追いかけて、ひょいと佐々の家族が囲んでいる円卓の方へ、酔いの出ているその顔を向けた。彼はすぐ顔をもどして、女に何か云い、女もほほえみをたたえたままじっと多計代の和服姿に注いでいた視線をそらした。伸子のかけているところからはすっかりその様子が見えた。
多計代は、食慾をそこなう不快なものをさけるように、椅子の上で少し体をむきかわらした。
「けさのけさまで、あんなに奥さんのお産を心配しているようなことを云って、みんなの同情を買っておきながら――あれが、大任を負った軍人さんのすることだろうかね」
困った表情で、泰造は、用のすんだ献立表をまた手にとって見るようにしながら、
「船でのつき合いは、船の上だけということにしておきなさい。そういうものだ」