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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
けれどね、おそらくあなたは、こういう場合を余り経験していらっしゃらないんでしょう」
伸子はありのまま答えた。
「日本では一遍も講演したことがありません。モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)でだって、これがはじめて」
「そうでしょう? あなたは、大へんたびたびキモノのそこのところを」
とニキーチナ夫人は、伸子の着物の上前をさした。
「ひっぱっていましたよ」
「あら。――そうだったかしら……」
「御免なさい、妙なことに目をとめて」
笑いながらニキーチナ夫人は鳶色ビロードの服につつまれた腕を伸子の肩にまわすようにした。
「そこについている刺繍があんまりきれいだからついわたしの目が行ったんです。そうすると、あなたの小さい手が、そこをひっぱっているんです」
ニキーチナ夫人は、伸子たちに、土曜会の仲間に入ることをすすめ、数日後には一緒に写真をとったりした。でも、土曜会とは、どういう人々の会なのだろう。伸子たちは、つい、行きそびれているのだった。秋山宇一は、おとといも行ったというからには、土曜会の定連なのだろう。
「この間は、珍しい人たちが来ていましたよ、シベリア生れの詩人のアレクセーフが。