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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
さ、もっとよくはいってあったまりなさい。泰造はそう云いながら、行儀よく着もののなかで膝をそろえて横たわっている伸子の脚に、自分の片脚をからめて、ひきよせるようにした。それは、全く自然な父親の情愛のしぐさであったけれども、同時に、男のしぐさでもあった。伸子は、その瞬間に感じたつよいはずかしさをいまでもおぼえていた。父は無邪気であり、自分は、結婚生活を知っている年かさの娘として、無邪気でなかった。そういう自分を伸子は忘れないのだった。
つや子がわかれて泰造の寝台へ行き、多計代は伸子と夜がふけるまで話した。話しにでることは、どれもこれも船の上でのことだった。それほど心がとけても、多計代は保については姉である伸子にかたく唇と心とを閉して、ひとこともふれようとしなかった。
四
ごたついた佐々のうちの一行にとって、皮肉なほど似合いのホテル・アンテルナシオナールでの生活がはじまったとき、伸子に思いがけない困難を感じさせた第一のことは、みんなの一日の行動のプログラムを組み立てるという仕事だった。
多計代の疲れは見た目にもあらわで、多計代が、できるなら食事もホテルの室でとって、安静にしていなくてはいけない状態であることは、あきらかだった。