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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

「パリへ来てまで、こんな思いさせられるなんか、僕ごめんだ」

言葉に出して、伸子に云うのだった。

「小枝だって、ちゃんと、いやですって云えばいいのに、いつだってぐずぐずなんだもの」

「だって、お兄さま、そうはいかないわ」

姪であったときと、嫁という立場におかれたいまとでは、和一郎と小枝との間にある感情そのものにも複雑さがましているのであった。

伸子は、和一郎の不満、小枝の困惑を、自分の困惑に重ねてうけとった。一週間、十日のことならば、毎日ヴォージラール街のホテルから親たちのいるディエナまで通って来て、一日の三分の二をそこでの必要をみたすためにつかったとしても、何とかなった。どうせ、うちのものと落ち合うために来ているパリなのだったから。そして、伸子は、マルセーユへみんなを迎えに行った晩、一人でのって行く夜汽車の隅で決心もしたのだから。とにかく、うちのものの必要のために役立つものであろう、と。泰造と多計代とは秋の末までパリとロンドンで暮そうとしていた。その上で、和一郎と小枝がヨーロッパへのこることになるかもしれなかった。しかしそれは未定で、泰造と多計代の考え次第でどうなるかわからないことだった。