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どうひょう

道標

宮本 百合子

第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页

青空文庫

それだのに、おっかさんときたら、ちょっと何か満足することがあると、そういうことは何でも彼でも、『彼』のおかげにするんだ。僕たちがやったことでもだよ。そして僕たちは、あらいざらいの気にくわないことの張本人にされる。生きてるものが、そんなに死んだものの犠牲にされるなんて、あることかい? そんなに『彼』がいいんなら、おっかさんは何だって、袋をもったりタクシーを止めたりすることだって『彼』にさせればいいんだ」

和一郎が、多計代の携帯品である錦のつつみをきらう原因は、ただ保の肉体についての思い出からばかりではないのだった。

「僕は、ホテルの女中でも、あれを何かと間違えてなくしちゃいでもしたら、かえっていいと思ってるくらいだ」

つや子は、一人ぼっちで誰もいないひろい両親の室へ臥ているのをいやがって伸子、素子、和一郎、小枝とつまっている室の、一つのベッドにはいっていた。

若い四人は、つや子を眠ったものと思い――そう思ったというよりむしろそこにつや子がいるのを忘れて話していた。

和一郎のはげしい語気に、たれ一人口をきくものがなくて、ひっそりしたとき、伸子はふと、ベッドのなかでつや子が泣いているのに気づいた。