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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
藤堂駿平のソヴェト滞在はほんの半月にもたりない予定らしかった。
「いや、いや」
灰色服をきたひとは、一瞬医者らしい視線で伸子の顔色を見まもったが、
「いたって御健康そうじゃありませんか」
と言った。
「わたしの任務は、わたしを必要としない状態にみなさんをおいてお置きすることですからね」
誰かと話していた藤堂駿平がそのとき伸子にふりむいて、
「あなたのロシア語は、だいぶ上達が速いそうじゃないか」
と云った。伸子は、自分が文盲撲滅協会の出版物ばかり読んでいることを話した。
「ハハハハ。なるほど。そういう点でもここは便利に出来ている。――お父さんに会ったら、よくあなたの様子を話してあげますよ。安心されるだろう」
その広い部屋から鍵のてになった控間の方にも、相当の人がいる。みんな日本人ばかりで、伸子はモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)へ来てからはじめて、これだけの日本人がかたまっているところをみた。小規模なモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)大使館の全員よりも、いまサヴォイに来ている日本人の方が多勢のようだった。藤堂駿平のそばから控間の方へ来て、帰る前、すこしの間を椅子にかけてあたりを眺めていた伸子のよこへ、黒い背広をきた中背の男が近づいて来た。