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どうひょう
道標
宮本 百合子
第一部「展望」筑摩書房、1947(昭和22)年10月号~1948(昭和23)年8月号<br> 第二部「展望」筑摩書房、1948(昭和23)年9月号~1949(昭和24)年5月号<br> 第三部「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年10月号~1950(昭和25)年2月号、1950(昭和25)年4月~12月号<br> 資料「展望」筑摩書房、1949(昭和24)年8、9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 846,457 字 · 1672 页
――そうでしょう?」
単純な云いかたではあるけれども、これらの言葉には、日本の「家」のなかでおかれている伸子の娘としての立場と、自分としての生きかたを主張している女としての条件の自覚がこめられているのだった。
「…………」
「もし、わたしがここのうちのなかで、こういう問題についていつも第三者的な立場に自分を置こうとしないなら、どういうことになるのかしら――」
多計代は沈黙したまま、不安げに長い睫毛をしばたたいた。伸子の云っていることのわけが多計代にのみこめたのだった。もしも多計代が不用意に云ったようなことが事実あって、伸子が和一郎をけしかけて佐々の家の金銭問題をせせくる女であるならば、佐々の家の将来はどうなるだろう。運転手の江田が和一郎を若様とよぶにまかせている多計代のこころもちには、自分たちの代でこれまでにした佐々の家という意識、そのあととり息子としての和一郎という意識がつよく作用している。パリへ来て、母の知らない別のホテルに泊って、自分たち夫婦の旅費の精算を強硬に主張するようになった和一郎のこころの底にも、日頃の多計代の口癖が反映している。どうせやがてはみんな自分のものになるものなら、それが必要な今ほしい、出しおしみするなといういきりがあるのだろう。