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さこく

鎖国

和辻 哲郎

日本の悲劇

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 443,306 字 · 875 页

青空文庫

だからインカは依然として輿に乗ったまま、人波の上に漂っていた。夕闇が深まると共にスペイン人はインカの脱出を恐れて思い切ってその命を絶とうとさえ試みたが、彼に最も近づいているピサロは、「命の惜しいものはインカを打つな」と大声に呼んだ。そうしてインカをかばおうとして腕を延ばし、味方のために手に傷を受けた。この傷が、この騒ぎの間にスペイン人の受けた唯一の傷であった。やがて輿をかついでいた貴族のうちの数人が斃されて輿は覆えされた。インカは危うく大地へ打ちつけられるところであったが、ピサロと二三の騎士が受けとめた。そうして側の建物へ連れ込んで厚く保護した。

インカが捕虜となると共にあらゆる抵抗は止み、すべての人が脱出に狂奔した。郊外に幕営中の軍隊も闇に紛れて逃亡してしまった。この騒ぎは僅か半時間あまりで片附いたのであるが、その間の死者の数は二千とも云い一万とも云われている。

ピサロはその夜約束を守ってインカと晩餐を共にした。彼はいろいろとインカを慰め、白人に抵抗する者は彼のみならず他の君主も同じ運命に逢うこと、白人はイエス・キリストの福音を伝えに来たのであって、キリストの楯が彼らを護る限り勝つのが当然であること、アタワルパは聖書に対する侮辱の故に屈服せしめられたのであること、スペイン人は寛大な民族であるから信頼し