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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

市十郎も、家出以来、きょうまでのことを――語り難いお袖のことも、お島のことも、それからの自堕落も、今は兄への謝罪として、つつまず話した。

けれど、彼の真摯な懺悔にも似ず、年暮のうちの幾日かの話には、つじつまの合わない箇所が多かった。

彼にいわせると、決して、つつみ隠すのではなく、まだ、本当の自分に立ち回っていないのか、どうしても、所々の行為が、われながら思い出しきれないのだというのである。

そして、最後に、彼はいった。

「今は、いささか自分に返っておりまする。決して、取り乱して申すのではございませぬ。お慈悲をもって、兄上にも、上人にも、私をここでお見放し下さい。――さき程、恥をしのんでお話し申したお島の家を出たときの気持は、ひと目、兄上におあいして、罪をお詫びし、その足で、大岡家の菩提寺、相模堤村の浄見寺へまいり、祖先のお墓のまえで、割腹して果てるつもりであったのです。……私は、直ちに、これから浄見寺に行きまする。おわかれを、おゆるし下さいまし」

主殿は、久しぶりに、弟らしい弟を見て、思わず、熱い眼をそむけた。

この弟のために、叔父兵九郎は切腹した。