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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
一死再生
けれど、気分は、爽快であった。――たしかに一ぺん死んだ覚えがある。記憶がふっと断れている。そして、二十七歳の初春をもっていま生れ甦った感じである。
この嬰児にたいし、同苦坊は、半日枕元にすわり、諄々と、生命の何ものなるかをはなしてくれた。
「ひとの生命を愛せない者に、自分の生命の愛せるわけはない。――自分の生命すら粗雑に持ち扱う人間が、何で、ひとからその生命を祝福されようか、愛されようか。……不幸なことはきまっている。ひとのせいでも、世の中のせいでもない」
そんな事もいったりした。
兄の主殿が着いた。お縫も、そっとうしろに添って、ここの明るい病室へ通った。
――が、そこにもう同苦はいなかった。その日の朝、すでに彼は旅立っていた。
お縫のすがたを見ると、市十郎は、さすがに、慚愧と苦悶を、眉にみせた。同苦から幾たびもいわれた――死んだ自分を――また疼きかけた。
お縫は、ただいっぱいな涙を眼に見せただけで、何もいえなかった。しかし市十郎の枕元には、その時から常に彼女の姿があった。
数日の後、市十郎は床を払った。
お縫が、養家から持って来た新たなる衣服や身のまわりの物。