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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
わらわらと、人は馳けつけてくるし……。これはと、町中へ走り出してしまったの。そして、江戸橋前まで来ると、自身番の灯が見えたので、頭巾や黒衣を道ばたへ脱ぎすて、蔭間茶屋の色子だと出たら目をいって、番太郎の小屋へ泊めてもらったわけなんですよ」
「ふーむ……」と、大亀も三平も、そういうお燕の顔を、今更のようにしげしげ見て、「いい度胸だなあ。イヤ驚いた。こいつあ、おふくろにも勝る鬼ッ娘にちげえねえ」
と、舌を巻いていいあった。
だが、お袖は、気にくわない顔色を見せて、
「まあ、あきれたお馬鹿ちゃんだよ、おまえは。――何さ、あんな印籠一つを」
「でも、わたしには、わたしの生命と一緒に、大事な物でしょう」
お燕は、打って変って、つよい口ごたえを返した。母と娘のことばの裡には、ちょっと他人の三平や大亀には、察しのつかない語気があった。
「お出しなさい、その印籠を。いッそのこと、大川へ捨ててしまってやるから」
「いやですよ。そんな事したら、いくらおっ母さんでも……承知しないからいい」
「じゃあ、おまえは」
お袖は、ことばの下に、お燕の腰から、印籠をり奪くった。
「いやっ――」