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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
あめつちの、かみ、ほとけに、
いのりたてまつる。
この身の諸悪罪業のむくい、この身ほろぶまで、責苦あらせたまうとも、あわれこの子に、科あらせ給うな。
この子の罪みな父にあり。この子のすこやかを、守らせたまえ。
元禄寒年飢日
焼野の雉子
「なんだろ。大亀、おめえには、わかるか」
「わからねえの。何の、お守りやら」
すると、櫓の手をやすめた阿能十が、苫の上から、隙見して、中の者へいった。
「わかってるじゃねえか。それやアそれ、お袖さんの初恋のよ――そしてお燕ちゃんにとっては、実の男親の……市の字が書いたものさ」
「あ。むかしの市の字。今じゃあ、大岡越前とかいって、江戸町奉行になりすましている、あの男が書いたものか」
と、赤螺三平は、好奇心を眼に燃やし、阿能十は、まだ上からしゃべっていた。
「いつか、お燕ちゃんが、そっと、おれにだけ見せて、父親があるのに会えないというのは、何たる因果者だろうッて、涙ながら嘆いたことがあるんだ」
「おいおい、阿能。よけいな事を、上からいうなよ。見ろ、お袖さんの眼が、見るまに、夜叉みたいに、恐くなった」
「ほい。いって、悪かったかな」
「悪いにきまってら。