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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
駕籠が、数寄屋橋門内に入り、役宅の玄関に、降ろされるまで、ふと、心をとられていた。
もう、黄昏れていて、役宅の部屋部屋は、退けていた。が、常に彼を補佐している吟味役の市川義平太と、目安方の小林勘蔵のふたりだけは、越前の用部屋に、燭をそなえて、待っていた。
越前はすぐ机により、その日の公事、市政、獄務、消防、道路、市井事故などのあらゆる件にわたる書類に目を通し初めた。
ふと、山善の一件書類が、かれの眼をひきつけた。
当夜の押込み五人組の強賊の――かおだちや年頃やらが、山善の召使や、重傷を負った夫婦の口書などにより、かなりな輪廓が、それには、浮かび出ている。
そのほか、江戸橋自身番の、庄七と由蔵の証言も、つぶさに、書きあげられてあった。
「……?」
越前は、数回、蝋燭の芯を剪った。
夕食をわすれていた。――いや、常ならばもうとうに、家庭に帰って、妻のお縫や、わが子の中に、一個の私として解かれている時間なのに、それすら忘れはてていた。
「葵紋ぢらしの蒔絵印籠……? はてな、葵紋ぢらしの……?」
越前は、愕として、何度も、そこを読みかえした。
「万字屋の蔭間といつわって自身番に夜を明かしていた十六、七の若衆が、それを所持していたとあるが。