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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

お袖は、行燈へ灯を入れながら、ふと、朝からそこにおいてある蝿除けをかけたままの膳を見て、味噌久へ、舌打ちしていった。

味噌久は、三ツになるお袖の子のお燕をあいてに遊び相手になりながら、物干し台で川風にふかれていた。

「ほんとに、どうしたんだろう。もう、日が暮れるっていうに」

ゆうべ別れた大亀と阿能のあれからを想像して、味噌久はふと夕雲に、不安な眼をあげた。

「さ、お燕ちゃん、お行水を浴びようね。いいお子だから。……ネ。ネ。おしろいつけてきれいきれいに、お化粧しましょ」

お袖は、子どもを抱きに来た。そして台所の軒下に、雨戸を横にして囲った盥の湯へ、自分も帯を解いて白い肌をかくした。

夕闇にこぼれる、湯の音にまぎらして、

「オオ、きれいにおなりだこと。こんなよいお子になったのに、お燕ちゃんのお父さまは、なぜこんな可愛いお顔を見に来ないんでしょ、お燕ちゃんも、お父さんに会いたかろうにね」

聞く人もなしと思ってか、若い母親は、無心なこと神のような肉塊をあいてに、心のうちのものを、戯れのようにいいぬいていた。

物干しのてすりに暮れ沈んでいた味噌久は、小耳にはさんで、身につまされ、