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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
左右太の免役
――というのが、正直、かれら下役の、いい分らしいが、さりとて、泣き言をいうのは、中山出雲守の北組にたいし、なんとも、小癪だという意地もあって、忍んでいる顔つきだった。
「――山本はここに見えんか。山本左右太は」
そこへ、吟味役の市川義平太が、与力山本左右太をさがしに来た。
「左右太どのなら、いまし方、湯呑み所で、弁当をつこうておられましたが」
「いや、与力部屋も、湯呑み所も、のぞいて来たのだが」
「何か、急な御用ですか」
「お奉行が、呼んでいらっしゃるのだ」
「じゃあ、さがしましょう」
と、みな同心部屋を出払って、ひろい役宅、吟味所、各詰所、揚屋、仮牢、不浄門の裏の空地など、おもいおもいさがし廻った。
左右太の免役
奉行所の西門前に、俗に、石焼豆腐とよばれている「訴訟人休み茶屋」がある。
公事訴訟の手つづきやら、牢内の知人へ差入れ物をする身寄りの人々などが、ここで書類をかいてもらったり、時刻を待ったりしているので、いつも繁昌していた。
山本左右太は、与力のなかでの若手で、年はまだ三十がらみ、苦みばしった男前もわるくなく、石焼豆腐の評判娘といわれるお次と、とかくの噂があった。