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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

日傘と日傘

どちらへ」

何か、お重箱につめた食べ物らしいものを抱えて、折々、ここの二階を訪れるお次が、ちょうどそこへ来あわせた。

源吉はふりかえって、大げさに、手を打ってわらった。

「旦那あ。こんだあ旦那の番ですぜ。どうです、おゆるしが出そうですか」

日傘と日傘

もう遅桜も褪せて、夏隣り。

釣舟も、猪牙舟も、屋形舟も、これから川へぞめき出る季節である。

舟源の猪牙舟は、お次ものせて、客ふたりに、船頭ひとり。火鉢を中に、さし向うには、頃あいな舟のひろさだ。

「おい、源吉、待った待った」

「なんです。忘れ物ですか」

「いや、まだ宵だろう。すぐ大川へ出さないで、逆に、堀留の方へ漕いでみてくれ」

「ヘエ、堀留へ」

「なんでもよいから、舟を向け直せ」

「わかりましたよ。何もいいますまい」

源吉は、櫓をねじッて、ぎっぎっと、川を溯った。

川幅は、だんだんせまくなり、岸は高くなって、両側に、土蔵や荷揚げ桟橋ばかりが見えてくる。

「……ここだな。山善の裏は」

土蔵印に、それと知って、左右太は、舟をとめさせ、しばし川の中から山善の住居や路地を見上げていた。

かれは、疾くに、賊の襲った足どりは、この川筋からと、見ていたのである。