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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
「どこへです」
「牛込の市川楽翁の家……義平太の父のやしきだ。きょうは二人とも、明け方から、役宅へ詰めたので、少し早目に帰ろうと、一緒に役宅を出たが、彼は、思案にあまる相談事もあるから、父の屋敷へまわるといって別れたのだ」
「お邪魔でなければ」
「いや、お次さんこそ、ゆうべに続く今夜、疲れていなければ、来て欲しいが」
「お供いたしましょう。ゆうべも今朝も、舟の中では、たんと居眠りましたから、そんなでもございませぬ」
お次は、店の裏から出た。
その間に、小林勘蔵は、もいちど役宅の同心部屋へ馳けてもどり、夜詰番へ、何かいいのこして、数寄屋橋のたもとへ出て来た。
「人目に立つ。駕籠を拾おう」
お次も乗せて、牛込の柳町へいそがせた。
町医者らしい門造り。刺を通じると、楽翁自身が、式台へ出て来て、
「よ。これや、おめずらしい。さあ……」
と、奥へ招じてゆく。
友達の父なので、小林勘蔵も、かねてから親しくしている間。お次を、ひきあわせ、さて、その事件についてですがと、早速、
「義平太どのも、こちらへ、参っておられるはずですが」
「いや、伜は、しばらく見えんが」
「じゃあ、今夕、まだ見えておられませんか」