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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

起き上がった黒ふく面の老人は、命じるようにいった。

「せがれ。うるさいから、ついでに、猿ぐつわをかけてしまえ」

義平太は、さらにお燕の顔の半分を、布でしばった。

そして初めて、驚きを、驚きとして、表情した。

「意外です。父上が御出馬とは、実に意外だ。まッたく、思いもかけぬことで――」

「さもあろう」

と、楽翁自身すら、医者として、また、この老年を、よくやって来たものと、自分を疑っているように、

「ま。わしの心や、今夜の仔細は、あとで話すことにしよう。……何よりは、そち達の向った、御隠殿下の方の捕物は、どうじゃった。うまく行ったか」

「首魁の化物刑部めは、火を放って、自殺をとげました」

「そいつは惜しいな。して、ほかの賊徒は」

「赤螺三平も、大亀も召捕りました。阿能十蔵は、その場から逃げ出し、鶯橋から下の谷へ飛びこみましたが、追ッつけ、これも搦めて参りましょう。次々と、それらを差立てました故、あとは、ふたりの女賊のみと、われわれひとつ心の者だけが残って、辺りを張りこんでおりましたのに、老体の父上に、功を先んじられようとは」

「いや、わしは与力でも同心でもないからな。