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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页

青空文庫

自己の詮議

自己の詮議

ここ十数日の南町奉行所は、異様な緊張にとざされていた。

まだなんの発表もなされたわけではないが、たれいうとなく、堀留五人組強盗は、南の手によって、召捕られたと、江戸中に聞えて、北町奉行との対立に、興味をいだいていた市民たちは、

「南も、やりましたね」

「やッたねえ。大岡様も」

と、黒ボシつづきの負け組に一点入ったような、新しい感興をもって、噂まちまちであった。

しかし、南町奉行所自体の内部には、決して、そんな浮わついた昂奮もなく、凱歌もなかった。むしろ何か、その日以来、一抹の墨気を刷いたような冷たいきびしさが、古い巨大な建物の全面にただよい、内部の吟味所、書記溜り、与力控え、また奉行の居室を初め、どこを窺っても、しいんと、張りつめた静けさだった。

きょうも越前守は、一室を閉てきっていた。

うずたかき書類を、身辺に置き、そばには、目安方の小林勘蔵、吟味方の市川義平太の二与力をおき、この二人も、各※(二の字点、1-2-22)、小机に倚って、調書の整理や探究に他念がない。

宛として、ここは一つの犯罪研究室。

三与力の一名、山本左右太は、なお外部にあって、目明しの辰三や半次を手足に、ここから命ぜられる多方面な調査の資料蒐めと、探索とに、あれ以来も、休みなしに活動している。