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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
……して、それからきょうまでのことは?」
越前から、あとを、なお訊ねた。
当然、越前守のその頃の放埒、悪友仲間、家庭事情。また、お袖とはどうしても、添えなかった理由も出る。
お袖が、女の一生を、めちゃめちゃにした一歩の動機は――男のためだ、市十郎のためだ――と、呪咀し初めたのはそれからで、以後も、今も、呪いの火は、かの女の胸に、かき消えていない。
左右太が、諸所で、調べ蒐めて来たところを、順を追って、一方で語り、一方で書きあげている間に、市川義平太は、そのお袖を、死ぬまで、魔の爪牙から離さなかった化物刑部の素姓しらべと、かれら一味の、幕府顛覆の陰謀を諸方からあつめた資料によって、その全貌を、えがき出そうと、努めている。
刑部が、多年にわたって、西国の密貿易仲間とむすび、各地の浮浪人とともに、大陰謀をもくろんでいたということは――これはこんど獄舎につないだ阿能十蔵から明るみに出たことだった。
また、その十蔵の、もとの身分、悪の仲間へすべり落ちた動機。それも、明白にされている。
大岡亀次郎といい、阿能十といい、死んだ味噌屋の久助といい、お袖といい、およそ、それらの人間たちが、青年期に、岐路を過った動機と、周囲と、社会条件は、帰するところ、みな一つだった。