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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
「日光」1948(昭和23)年9月~1949(昭和24)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 页
巣なし鳥
巣なし鳥
それを、左右太に、いつ打ち明けようかと、この間うちから悩んでいたが、姉のお島は、島破りという兇状持ちだけに、何事につけ、疑いぶかく、自分がちょっと他人と低声で話していても、ふと外へ用に出ても、すぐ目にかどを立てて、訊きほじる始末なので――ただ独り胸を傷めていたところでした――と、話すのでもあった。
「ああ、ここにもまた、一難が」
左右太は、ふたりの恋だけは、醜悪な世間の外に、小さな花野として、心に持ち合っていられるものと思っていたが――ここもまた、人間の罪悪と見惨めを見ない花野ではなくなったか――と、憮然としてしまった。
が、かれは、心のうちで、
(これは、お奉行のお立場や、義平太の苦しみなどとは、大いに、事情がちがう)
と、すぐ自信をもって、割りきっていた。恋人のお次にたいして、こういい断っても、決して、職分を裏切り、自己をあざむくものではないと思った。
「よしっ、分った。嘆くのは、むりもないが、おれとの約束を、水に流すなどと、狭い考えは、起さぬがいい。――何も、そなたには、罪もないこと」
「でも、奉行与力のあなたのお名に」
「障らば障れ、おれ自身には、後ろ暗いことは、何もない。